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『番猫ぶんた』

会員コラム 文 : ミューズ建築デザイン 吉田 清美 2011年8月

◎ 名 前

吉田 ぶんた 11才 オス。

◎ 雑 種

ボーっとした具合が主人に似ていると、主人の友人宅から引き取られて11年。ギタリストの主人と奥さん、息子のきょうすけと暮らして来た。

◎ 性 格

温厚。秘めた押しの強さで女性の胸に収まる、女性好き。

◎ 特 技

言葉を話す。

◎ 食 事

カリカリ食べ放題に稀に美味しい缶詰ごはん。
人間の食べ物に興味なし。
昨日、奥さんに病院に連れて行かれた。
主人が成人病では?と疑っていた奥さんに察知された。
ぶんたに糖尿病の診断だ。
食べ放題大好き=食べさせ放題大好きの主人が奥さんに怒られる。
「僕はまだ、ぶんた みたいに水、がぶのみしませんから・・」
水飲み放題になった時はもう病気だ。
まずは飼い主の主人から教育が必要だ。

◎ 震 災

今回だけではなかった。昨年の夏はマンション火災にあった。家族で逃げ遅れた。リュックの中に放り込まれ、きょうすけに背負われ、バルコニーで助けを待った。3年前の宮城内陸地震では上階の給湯管がはずれ、豪雨のような水が天井から降り出し、部屋がジャブジャブになった。
今回は、10階の仕事場から8階の自宅に奥さんと主人が飛び込んで来た。すでに炊飯器やレンジが心霊現象のように飛び回っていた。家具に埋もれながら、きょうすけがリュックに ぶんた を入れようと追いかけていた。   
ぶんた も飛び回って姿が見えなくなった。廊下からは防火戸が落ちるバーンという音が響く。このマンションで火が出たら逃げられない。
災害を乗り越えてきた ぶんた だから、火事さえなければ生きていると信じ、きょうすけを連れ出し家族はマンションを駆け下りた。
駆け下りマンションを見上げると、バラバラとコンクリートの破片が落ちてくる。開かなくなった玄関ドアを助けてとたたく音。我が家はこんにゃくの先のように揺れている。きょうすけのワンセグからは大津波警報が放送されている。今、我々は河原に立っている。ぶんた を置いて河原から避難した。4日後、マンションの様子を見に行った。ぶんた を呼んでも返事がない。物音もしない。あきらめて去ろうとしたきょうすけが視線に気付いた。後ろから見られている感じがする。振り向き見上げた食器棚の上に2つ目が光った。「ぶんたがいた!!」保護して避難先に連れ帰っても3日間は声を出さなかった。

我が家の被災はそれでも少なく、小さい事だ。生徒さんの安否確認が済めば、しばらくギターを弾く人はいないと思えた。お教室も何ヶ月もお休みになると考えていた。
電話が繋がりだしてすぐ、生徒さんからレッスンはないのか?と問い合わせが入る。ちびっ子からは、おうちで練習をしているから課題を教えてと電話が入る。ネットが繋がると、南相馬市や福島、郡山市の方からギターを習いたいと問い合わせが入る。??
何故だ??

主人と奥さんは考えた。浮き立つ心の波を抑え、平常心を取り戻したいのではないか。

 

連呼されるCM音楽と不安なニュースに心も体も冷め、栄養ドリンクのように体あたため血を流すものを求めているのではないか。
ギターを爪弾いた音がきっと役に立つのだと考えた。
没頭する時間が皆の救いだと気付いた。

そこから急ぎ、教室と奥さんの事務所を復旧することにした。
生徒さんも毎日片付けを手伝いに来てくれていた。
3週間後の4月から再びギターを弾きに生徒さんが帰って来た。

自宅マンション被災から、家族は引越した。
取り急ぎ、寝られてお風呂に入れるのが優先のこと。
「猫の入居はお断り」も止む終えず、家族だけ避難。
震災以後は主人と奥さんの仕事場で番犬のような番猫として留守番をしている。

◎ 番猫ぶんた

今日も朝からレッスンが始まった。
ちびっ子から80代の方までギターを弾きに来ている。
震災対応の激務を終え、22時以降でも社会人さん達が来る。
ちょうちょからエール(いきものがかり)、戦メリ(坂本龍一)、ボサノバ、ソル、カルカッシからバッハの正統クラシック、影を慕いて(古賀政男)まで入れ替わり立ち代わりのレッスンを隣の部屋で聴いている。
クラシックギター、アコギ、エレキと生徒さん持参のギターもいろいろだ。同じ曲を演奏しても、生徒さんによって、おもしろいほど音と表現が違う。そんなにビンビン弾かなくても大丈夫と言いたくなる活発な女の子、優しくて音色も聴こえなくなる男の子、最近キュンと色っぽい演奏をするようになったTさん、若々しさと曲がぴったりマッチのK君。
ギターは人と最も近い楽器と言われる所以だ。
基本、爪で弦を弾いて音がでるから、持って生まれた爪の質でも演奏が違う。ぶんたも主人も爪とぎは命。ネイルケアのグッズは充実だ。
演奏中は邪魔しないのが、番猫のプライド。
最後の生徒さんが「ありがとうございました」と玄関を出いった瞬間
から弾丸トークでしゃべりだす。

暑っちい〜 暑くてやってらんねーよ なんとかしてくれよこの暑さ
腹減ってんだよからよ〜 この爪でじゃら〜ん大事なギター弾いちゃうぞ〜

言われて、主人がいそいそ「ぶん!ご飯においしいふりかけ、かけてやるからな〜」懲りない関係だ。


◎ ぶんたのおすすめ

毎日いろいろな演奏を聴いている ぶんたから、クラシックギター曲のおすすめを紹介。
ギター→フラメンコ→スペインとつながるのか?
奥さん曰く、ギター→演歌→流しと思っていたか?
ギター曲のイメージは湧かないのが一般だ。

ギターとスペインの繋がりが濃いのは、スペインに優れたギター曲の作曲家と演奏家がいて、また優れたギターの製作家がいたことによる。古くは宮廷音楽として、嗜まれたものであるから、バッハのようなクラシック曲を奏でるのは歴史的には必然なのだ。ギター曲で著名なのが、フィギュアスケートの音楽でよく使われる「アランフェス協奏曲」ホアキン=ロドリーゴ作曲による楽曲。第2楽章があの有名な哀愁漂うメロディーだ。でも、哀愁=スペインと感じてもらってはとても残念だ。アランフェス協奏曲は第1楽章もお勧めしたい。明るく軽快な旋律でかわいらしい印象だ。
スペイン音楽は明るくロマンティックなものだ。
スペインの人々は男も女もおしゃべりで賑やかだ。
東北のローカル線に乗ったかのように、スペイン行きの乗り換え便はおしゃべりと笑い声で騒々しい。スマした国際便から激変だ。

優れた作曲家のひとりとして、イサーク=アルベニスも紹介したい。
スペインの各都市(街)を主題にして編集された、アルベニス作曲の「スペイン組曲」をお勧めする。偉大なる妄想家?として、その町に行ったつもりの作曲もあるが、スペインを旅した気持ちで聴いて欲しい。
都会的なフラメンコのセビジャーナスを感じる「セビーリャ」、アランブラ宮殿のある「グラナダ」、海辺の田舎町「カディス」、静寂のメスキータのある「コルドバ」・・・音楽といっしょに心を飛ばしてみよう。
ギターはフラメンコだけではないことが解るから。
そして、ギターの音色はきっと気持ちを癒してくれるから。
さあ!!健康な気持ちで山積みの現実に向かい合って行く為に。

じゃら〜ん。


◎ あとがき

被災された住宅の復旧リフォームに次々と取組む毎日。
津波被災の現地に出向き、仕事といえどもシャッターを押せなかった
数ヶ月。お客様との再会に涙し、お別れに涙し。
「ペット大好き」のコラムもどのような展開にすべきか、迷いに迷った。
手も足もでない。ぶんたを通して、皆さんの知らない事を書いてみよう。
興味を持っていただけたら良しとしよう。コーディネーターにとって興味を持つこと、知る事がインテリアの仕事に繋がると思って。


執筆者紹介

吉田 清美

ミューズ建築デザイン

 


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